平成23年度11月作成(毎月1個更新目標!!)
○木魚と木鉦
■はじめに
今回のコラムでは、お坊さんが使う道具で、一般の方にとって一番親しみのあるであろう「木魚(もくぎょ)」と、日蓮宗ではお馴染みの「木鉦(もくしょう)」について書いていきたいと思います。
■「木魚」
○概説
「ポク、ポク」という柔らかい音がする法具です。
お経をお唱えするときに、リズムを整えるために用います。
○歴史
木魚は、その字の通り、元々は「木で作られた魚の形をした道具」(写真参照)でした。
これは、庫裡(くり、お寺の者が生活する場所)や食堂(じきどう)などの廊下につり下げておき、集合の合図として、打ち鳴らされる物でした。○回鳴らせば起床、△回鳴らせば食事など。
それから、中国、明(みん)の時代(1368-1644年)に、魚の頭と尾がくっつけられ円形となり、お経をお唱えする際リズムを整える道具として使われるようになりました。
さらに、後に改良されて、「二頭一身の龍(1つの身体に2つの頭を持つ龍)の2つの頭がくっついた形」(写真参照)になりました。
(写真は、龍の頭を持つ2匹の魚になっています。)
日本には、1605年頃、黄檗宗(おうばくしゅう、禅宗の一つ、今でも明の様式を維持している)の隠元禅師(いんげんぜんじ)によって伝えられています。以後、各宗派で使われるようになりました。
日蓮宗でも下記の「木鉦」が作られるまでは、木魚だけを用いていました。
○形の謂われ
なぜ魚の形に作られたかについては、諸説あるようですが、「魚は昼夜問わず常に目を開けて活動しているというところから、魚のように常々励んで、怠け心を起こさないように」という戒めを修行者に示すためだったようです。
また、魚の形から龍の頭に改められたことについては、「三級浪高魚化龍(さんきゅう なみたかうして うお りゅうとかす)」という禅語に因んでのこととといわれています。
この禅語は、中国、夏の禹(う)王の時代(紀元前2070年頃)の、「黄河の治水によって、三段の滝(龍門三級)ができた。その滝は険しかったが、これを登りきった魚は龍となって天に昇った。」という伝説に基づく言葉です。「登竜門」という言葉の元となったお話です。
このことに因み、木魚に龍の頭を用いることで、木魚は「精進(努力)すれば凡夫(ぼんぶ)より聖人に至る」ということを示しているといわれています。
■「木鉦」
○概説
「カンカン」と歯切れのよい音がする法具です。
木魚と同じく、お経をお唱えするときに、リズムを整えるために用います。
○歴史
この歴史は比較的新しく、明治時代の初め頃に、名古屋地方で、浄土宗で用いられている「伏鉦(ふせがね)」をヒントに考案され、使われ始めました。
それから、明治時代の後半になって、日蓮宗の総本山のある身延地方でも使われるようになり、そして全国的にひろまっていきました。
○日蓮宗は木鉦?
日蓮宗では、御祈祷(ごきとう、おいのり)など、お経を速いスピードで読むときがあります。この時は、一本調子のリズムではなく、中拍子(ちゅうびょうし)・本拍子(ほんびょうし)といって特殊なリズムを刻みます。
こういう場合には、木魚の柔らかい音よりも、木鉦の歯切れのよい音の方がよく合います。このため、日蓮宗では木鉦がよく使われるようになり、「日蓮宗は木鉦のみ用い、木魚は用いない」と思わるようになってしまいました。
しかし、木鉦がひろまるまでは、日蓮宗でも、木魚が一般的に使われていましたし、お経をお唱えするときにリズムを整えるという用途は同じですので、「日蓮宗では木鉦のみを用いる」というわけではありません。
木魚、木鉦それぞれの音の特徴を心得て、法要の趣旨に合わせて使い分けるのが望ましいとされています。「追善供養などの荘厳(しょうごん)な雰囲気のときには木魚」、「御祈祷など激しく勢いの必要なときには木鉦」という感じに使い分けられるとよいと思います。
■購入について
○必要?
そもそも、購入する必要があるかですが、この法具は、一般の檀信徒の方でも使って頂いて構わない物です。お坊さんのいない場面で、ご家族だけでお経をお唱えする際にも、拍子を整えるために使って頂きたいと思います。
ただ、1人だけでお唱えするときなどは、周りの方とリズムを合わせる必要がありませんので、木魚や木鉦を用いなくても特に問題はありません。が、使い慣れてくると、1人でお唱えするときでも、叩きながらの方が、リズムに乗ってお唱えしやすいと思います。
したがって、お仏壇をお持ちのご家庭では、できるだけセットとしてご用意して頂くのが好ましいと思います。(大立寺では、お持ちでないご家庭のために、お参りの際は木鉦を持参することもできますので、敢えて購入しなければならないものではありません。)
○木魚と木鉦
それでは、どちらを用意するかですが、上記の使い分けの説明からすると、檀信徒の皆様も、2つとも用意していただかないといけないように思われるかもしれませんが、どちらか一つで構いません。
叩いてみて気に入った音の方を買われたらよいと思います。どちらとも判断出来ない場合は、「木鉦」にしていただければと思います。
○種類と大きさ
木魚には、桂蘭、本楠、本桑などが使われます。木鉦には、主に欅(けやき)、楓、桜などが使われ、花梨、紫檀、黒檀なども使われます。
木の材質によって、値段が大きく異なりますので、音の良さと値段とを相談しながら決めて下さい。これは好みですので、どれでも問題ありません。
大きさは、直径が3寸(約9㎝)くらいからありますが、5寸(約15㎝)くらいはある方がよいと思います。大きくなるにつれて、キーが低くなっていき、落ち着いた音になっていきますが、値段は高くなっていきます。とはいえ、これも好みですので、どれでも構いません。
○バイとふとん
木魚や木鉦を叩く物を「バイ」(写真参照)といいます。これにも、しなりや頭の大きさに違いがあるのですが、檀信徒の方にとっては大きな違いではありませんので、お買い求めの仏具屋さんに置かれている物で問題ありません。
(木鉦用) (木魚用)
下の写真のように、木魚や木鉦を「ふとん」に乗せることがありますが、木魚や木鉦と同じ大きさの「ふとん」だと叩いているうちに、ズレて落ちてしまうことがありますので、1回りか2回りほど大きい「ふとん」を用意して下さい。
木魚や木鉦は小さい程軽く、ズレ落ちる可能性は高くなりますので、ご家庭によっては、間に薄いゴム製の滑り止めや白いタオルを敷かれているところがあります。
そもそも「ふとん」は付属品ですので、必ず用意しなければならない物ではありません。ふとんは用意せず、初めからゴムの滑り止めやタオルだけを敷かれているご家庭もありますが、それでも構いません。
○最後に
繰り返しになりますが、木魚と木鉦は、お経をお唱えしている人達のリズムを合わせる道具です。そしてまた、これらは、その人達の「心持ち」も合わせていく法具です。
「異体同心(身体は違えども、心は同じ気持ち)」となって、日々のお勤めに励みたいものです。
※参考にさせていただいた本です。
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○日蓮宗について
○お坊さんの呼び方
○お線香のあげ方
○お数珠について①
○お数珠について②
○お数珠について③
○御札の祀り方
○金封(のし袋)について
○「祈り」について
○花の供養について
○お灯明について
○お経本のご紹介
○大立寺のお盆①
○大立寺のお盆②
○「お膳」について
○塔婆について
○木魚と木鉦
○お仏壇について①
○お仏壇について②
○お墓について①
○お墓について②
○布施について
○お経とは
○インド仏跡参拝紀行文(1)
○インド仏跡参拝紀行文(2)
○インド仏跡参拝紀行文(3)
○インド仏跡参拝紀行文(4)
○インド仏跡参拝紀行文(5)
○インド仏跡参拝紀行文(6)
○インド仏跡参拝紀行文(7)
○インド仏跡参拝紀行文(8)
○インド仏跡参拝紀行文(9)
○インド仏跡参拝の旅
まとめ動画
○東日本大震災第三回忌に臨んで(前編)
○東日本大震災第三回忌に臨んで(後編)
長唱山大立寺(だいりゅうじ)
〒607-8008 京都市山科区安朱東海道町56 詳しくはこちら