平成23年度7月作成(毎月1個更新目標!!)
○大立寺のお盆①
■はじめに
来月はついにお盆月です。お盆の風習は、宗派によって、地域によって、お寺によってそれこそ様々で、これが正しいとお示しすることはなかなか出来ません。
今月号のコラムでは、お盆一般のことにも触れつつ、大立寺ではどのようにしているかを中心に書いていきたいと思います。したがいまして、今月号は、主に大立寺の檀信徒の方々向けの説明になっています。
また、次月号(8月初旬更新予定)では、「大立寺のお盆②」として、精霊棚などお祀りの仕方について書く予定をしております。
■お盆とは
お盆は正式には「盂蘭盆(うらぼん)」といいます。これは、サンスクリット語の「Ullam-bana」を音写してできた言葉で、「逆さ吊り」という意味があります。
盂蘭盆は、目連尊者にまつわるお話から始まったとされています。
目連尊者は、お釈迦様の十大弟子の一人で、神通第一と呼ばれていました。目連尊者が、その神通力を使って、亡くなった母はどこにいるかと探したところ、母は餓鬼界に堕ちていました。目連尊者は、神通力で母を救おうと試みるのですが救えず、困って、お釈迦様に尋ねたところ、7月15日(僧侶の修行が終わる日)に修行僧に供養を施しなさいとお説きになりました。目連尊者が教えられた通りに供養すると、母を救うことが出来たというお話(『盂蘭盆経』)です。
それから、盂蘭盆は、供養を受けられず、「逆さ吊り」にされて苦しめられている亡くなった霊を救うための仏事となり、長い年月を経て、日本の先祖供養の考え方とも結びつき、江戸時代頃から今のような形で行われるようになったようです。
鎌倉時代を生きられた日蓮聖人もお盆については『盂蘭盆御書』という御遺文の中で、
『~目連尊者が法華経を信じまいらせし大善は、我が身仏になるのみならず、父母仏になり給う。上七代下七代、上無量生下無量生の父母等存外に仏となり給う~』
と仰っており、盂蘭盆に法華経によって先祖代々の父母を供養することの功徳の大きさを説かれています。
■お盆の時期
時期に関しても、宗派によって、地域によって、お寺によって様々ですので、「通例」というのが言いにくいですが、東京では、7月の13日から15日をお盆とされているようです。
しかし、関西では、昔の季節を重視してか一月遅れの8月に行います。企業などが一斉に休む「お盆休み」は全国的に8月ですので、何が通例なのかはやはりよく分かりません…。
一般に日付で一番多いのは13日から16日のようです。13日を「迎え盆」、16日を「送り盆」といいます。
日蓮宗では、日蓮聖人のご命日が13日でその逮夜にあたることから、一日早い12日からといわれています。したがいまして、12日が「迎え盆」となります。
そして、京都では、五山の送り火が行われる16日がご先祖様の帰られる日と考えられてきたことから、16日までがお盆となります。したがいまして、16日が「送り盆」です。
一方で、お盆月の1日を釜蓋朔日(かまぶたついたち)といい、地獄の釜の蓋が開くといわれ、1日からお墓に先祖様をお迎えに行けるとされ、お盆が始まるといわれています。
以上のことを踏まえてかそうでないかは定かではありませんが、大立寺では昔から、8月2日から16日までをお盆として各行事を行ってきました。
2~7日までにお墓参り(ご先祖様をお迎えに行く)をしてもらい、8日から15日まで棚行(家に帰ってこられたご先祖様に家族そろって読経する)に住職が赴き、16日にはご自分のご先祖様を送った後、大立寺の本堂にて営まれる盂蘭盆施餓鬼法要にお参り頂きます。
以下では、大立寺のお盆の仕方について主に説明し、所々でその他の慣習を紹介していきます。
■お迎え
2~7日の午前中にお墓にご先祖様をお迎えに来て頂きます。
受付に、下の図のような水塔婆(みずとうば)を各家ごとに用意していますので、まずこの水塔婆を受け取って頂きます。
そして、大立寺にお墓のあるお家は墓前で、水塔婆を建ててお経をあげます。その後、その水塔婆を持って帰って頂きます。
大立寺にお墓のないお家は本堂で、水塔婆を建ててお経をあげます。大立寺にお墓のないお家は本堂での読経の後、お墓参りをして頂き、水塔婆を建てて手を合わせた後、その水塔婆を持って帰って頂きます。
水塔婆を持って帰ることで、ご先祖様を連れて帰るという気持ちで行って頂いております。
地域によっては、墓前でお線香を焚いて、そのお線香を家まで持って帰ったり(お線香の煙に乗って帰ってきてもらう)、墓前で提灯を灯して、その提灯を持って帰ったりと色々な方法でお迎えするそうです。
また、「迎え火」といって、夕方に、お家の玄関で、「おがら」を焚くということも行われます。ただし、こちらは、一般には、いわゆるお盆の初め、12日(13日)に行います。大立寺では、水塔婆を持って帰られた日の夕方に、焚くのがいいのかもしれません。
■棚行(棚経)
8日~15日のいずれかの日に、住職が各檀信徒のお家に赴き、お家に連れて帰られたご先祖様に対して、精霊棚の前で、ご家族とともにお経をあげます。
例年、大体同じ日時にお伺いしています。変更などがある場合は、7月中にお寺から連絡を入れております。
初盆(亡くなられて四十九日(満中陰)を迎えた後、初めて迎えるお盆)のお家は、大立寺では、先祖代々に対してと初盆の方に対しての2度に分けて拝ませて頂いております。したがいまして、「初盆」のご家庭では、先祖代々用と初盆の方用の精霊棚を1つずつ合計2つ用意してもらうようにお願いしています。(精霊棚などの祀り方については、次月号で書く予定です。)
棚行(たなぎょう)の漢字は、「精霊棚の前で読むお経」から「棚経」と書くこともあります。
■お送り
16日の午前中にご先祖様をお送りして頂きます。
ご先祖様をお送りするという気持ちを持って、15日まで精霊棚に建てて頂いていた水塔婆を、お墓に納めに行って頂きます。
方法としては、お墓の水塔婆建てに建てて、手を合わせて頂くだけなのですが、水塔婆建ての無いお墓の場合は、寝かせて置いておいたり、紐でお墓の周りにくくり付けたりして頂いております。
この水塔婆は、出来るだけ一年間建てたままにして頂いております。お盆が終わって3月も経つと、日当たりの良いお墓では、乾燥してパシパシになったりしますが、それでも建てたままで構いません。墓地によっては、勝手に回収されてしまう場合がありますが…。
塔婆は、建てて供養することに意味があり、それによって少しでも御題目が広がっていきますようにという願いが込められているからです。
そして、一年後のお迎えの時に、昨年の水塔婆を下げて、住職に渡して頂ければ、大立寺でお経をあげて御焚き上げを致します。
午前中にご先祖様をお送りして頂いた後、午後1時からは大立寺の本堂で盂蘭盆施餓鬼法要にお参り頂きます。この法要では、ご自分のご先祖様だけでなく、全ての亡くなった者、さらには今生きている者まで、あらゆるものに回向・供養を施すという心持ちでお勤めします。「自分の」だけでなく、「他の」まで施すことに意味があります。この法要の終了とともに大立寺のお盆が終わります。
そして、16日夜、京都では、市内の山々に火が焚かれる「五山の送り火」が行われ、京都のお盆も終わります。
また、16日に、「迎え火」と同じ方法で、「送り火」を焚かれるご家庭もあります。最近では一部の地域やお寺を除いて出来なくなりましたが、灯籠を川に流す「精霊流し」も行われます。
■おわりに
「お迎えをした後は、お墓には誰もおられないので、お墓参りはできないのですか?」と聞かれることがあります。「留守参り」といって、お家にお帰りになっている間に、お墓の掃除に行くという慣習もあるくらいですので、「ご先祖様に手を合わせに行く」というお墓参りは出来ないのかもしれません。
しかし、本来、仏さま、ご先祖様は、自分たちのそばにいつでもおられる存在です。そのことをなかなか感じることが出来ないから、お仏壇の前で手を合わせ、お墓の前で手を合わせ、色々な場面でご先祖様を感じるようにしています。
したがいまして、「お迎えをしたからお墓にはおられない」とは考える必要はありません。いつでもおられるのですから、仕事が忙しくてご家族と一緒にお迎えに行けなかったとしても、安心してお墓参りをして頂いて構いません。
そうすると、「いつでもどこでもおられるのなら、わざわざこのような慣習を行わなくても…」と思われる方がおられるかもしれません。しかし、そうではなくて、「わざわざする」ことが大切なのです。
私たちは、このような慣習を通して、代々、ご先祖様を大切に、他の全てのものを大切にするという気持ちを育んできました。このような伝統を大切にしてきたからこそ、日本人特有の「優しさ」を持ち続けられたといっても過言ではありません。
話が飛躍しますが、「わざわざ」を面倒だから止めておこうとする風潮が、政治的にも、社会的にも、経済的にも、人格的にもお粗末な現状を作ってしまっているのです。日本人は変わってしまったと嘆いてばかりいず、日本人を形作ってきた根本的な慣習をもう一度見直して頂きたいと思います。日本人にとって、大切な仏事、「お盆」を家族揃って、これからも行い続けて頂きたいと切に願います。
※参考にさせていただいた本です。
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○日蓮宗について
○お坊さんの呼び方
○お線香のあげ方
○お数珠について①
○お数珠について②
○お数珠について③
○御札の祀り方
○金封(のし袋)について
○「祈り」について
○花の供養について
○お灯明について
○お経本のご紹介
○大立寺のお盆①
○大立寺のお盆②
○「お膳」について
○塔婆について
○木魚と木鉦
○お仏壇について①
○お仏壇について②
○お墓について①
○お墓について②
○布施について
○お経とは
○インド仏跡参拝紀行文(1)
○インド仏跡参拝紀行文(2)
○インド仏跡参拝紀行文(3)
○インド仏跡参拝紀行文(4)
○インド仏跡参拝紀行文(5)
○インド仏跡参拝紀行文(6)
○インド仏跡参拝紀行文(7)
○インド仏跡参拝紀行文(8)
○インド仏跡参拝紀行文(9)
○インド仏跡参拝の旅
まとめ動画
○東日本大震災第三回忌に臨んで(前編)
○東日本大震災第三回忌に臨んで(後編)
長唱山大立寺(だいりゅうじ)
〒607-8008 京都市山科区安朱東海道町56 詳しくはこちら